Musashiグループ

慶應義塾大学医学部生理学教室は、RNA結合蛋白質Musashi(7, 15, 19)についての研究を行っています。Musashi蛋白質は種を超えて高度に保存されており、主に神経系前駆細胞に強く発現しています(11,15,19)。最近では、神経系のみならず、多くの臓器・組織の幹細胞に発現していることが明らかとなっています(2, 11, 16, 18)。現在、ショウジョウバエMusashi(33) (図1), ほ乳類Musashi1(30, 32), Musashi2(25) (図2)が関係する発生現象、標的RNAに対する発現制御・機能制御、およびMusashiが強く発現する幹細胞の性質究明に興味を持って研究を進めています。


図1.Musashi蛋白質はショウジョウバエの遺伝学的スクリーニングにより、初めて発見されました(32)。ショウジョウバエMusashiは、神経系前駆細胞の非対称性分裂に必須な遺伝子として同定され、IIb細胞においてtramtrack69遺伝子の翻訳を抑制し、IIb細胞の運命決定していることが明らかとなっています(21, 33)

当研究グループには、これまでに多くの学生(博士課程、修士課程)・研究員が参加し、OB・OGを多く輩出しています。また、他大学・慶應義塾内の研究者との交流を行い、多くの共同研究が行われてきました。現在も、蛋白質構造解析、癌発生などの多岐にわたる国内外の研究者と共同研究を進めています。


図2. a.種を超えてMusashi蛋白質は存在し、ファミリーを形成している。b. Hu蛋白質ファミリー。

  1. マウスMusashi1のRRM2の溶液中立体構造(京大・片平正人博士、横浜市大・永田崇博士との共同研究(5, 19, 27, 31)

当研究グループは、musashi遺伝子(ショウジョウバエ、線虫、ゼブラフィッシュ、ほ乳類)のクローニング(4, 25, 26, 32, 33)、神経系幹細胞における発現の発見(32)から始まり、世界で初めてヒトの神経幹細胞の存在を示した発見(29)につぎ、Musashi蛋白質の標的となる配列同定(21, 22)、下流標的遺伝子の翻訳抑制の発見(21, 22)、RNAとMusashi1複合体の構造解析(共同研究)(5, 17, 27, 31)、PABPとeIF4Gの結合を競合的に阻害することで翻訳抑制を行うことの発見(14)、ガン細胞(脳腫瘍)におけるMusashi1蛋白質の発現・機能解析(3, 23, 24)、Musashiの新規標的RNAの探索(13)musashi mutant fly(21, 28, 33)、ノックアウトマウスを用いた遺伝学的解析(10, 20)musashi1遺伝子の転写調節機構の解析(1, 8) 、Musashi1によるmiRNAの制御(9)などのMusashi蛋白質について多くの研究成果をあげてきました。現在も上記の成果についてさらに理解を深める研究、またはそれらに続く新しい研究課題を進めています。

図3.下流標的遺伝子の一つとして同定されたm-numb(22)doublecortin(13)遺伝子の翻訳をMusashi1は抑制することが明らかとなっている。他にも、p21 (Battelli et al., 2006)、APC(Spears and Neufeld, 2011)の翻訳を抑制することが他のグループにより報告されている。 図4.mRNA上の3’-UTRに結合したMusashi1がPABPに結合することでeIF4G-PABP間の結合を阻害し、5’-cap依存的な翻訳をRNA選択的に抑えていると考えている(14)

2010年、Musashi蛋白質がある種の急性白血病の原因であるという発見が報告されました(Ito et al., Nature 2010; Kharas et al., Nat. Med. 2010)(12)。さらに、Musashi蛋白質は血液系だけでなく、消化器系、乳腺などの癌細胞発生・増殖に関与していることが明らかとなってきています(Sureban et al., Gastroenterology, 2008; Wang et al., Mol. Cancer, 2011)。当研究グループにおいて、ヒト脳腫瘍細胞におけるMusashi蛋白質の役割について研究を進めた成果、Musashi蛋白質はPTEN, Numbなどの特定mRNAの翻訳制御に関与していること明らかとなりました(3)。腫瘍発生の遺伝子変異が起こると、本来幹細胞で発現しているMusashi蛋白質が高発現し、腫瘍細胞の悪性化に寄与してしまうことを明らかとしました(3) (図5)。

musashi5
図5.ヒト脳腫瘍細胞においてMusashi1の発現をshRNA Knock Downによって減弱させると、脳に腫瘍を移植されたマウス個体の寿命が延長する (3)。上の段の赤いシグナルは増殖した細胞群を示し、青のシグナルは赤のシグナルに比して細胞数が少ないことを示している。下の段は、脳腫瘍細胞を移植されたマウスの生存曲線と細胞量を示すLuciferase の発光量を示している。

現在、次世代シークエンサーを用いたRNA seqによる標的RNA探索(HITS-CRIP法)によって、多くの個体発生、がん発生に関わるmRNAが同定されてきており、新たな転写後調節機構の解明を進めています。

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